政治体制をこんなにわかりやすく表現した小説はほかにはない! 小説『銀河英雄伝説』の魅力とは
銀河の歴史のページをめくって、現代社会の課題を知ろう
筆者が中学生の頃、田中芳樹氏による小説『銀河英雄伝説』(徳間書店)に出会い、夢中で読みあさっていました。1982年に刊行された本作は、その後、アニメやマンガ化もされ、より広い層に認知される作品となったのです。
2024年1月16日からはアニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These』が放送されており、多くのファンを喜ばせています。筆者にとっては人生のバイブルともいえる作品なのですが、意外と知らない人も多く、もっと知られてもいいのにと心から思っているのです。そんな『銀河英雄伝説』の魅力について、見ていきます。
本作は宇宙を舞台に、銀河帝国と自由惑星同盟の争いが描かれています。専制政治を布く銀河帝国も、民主主義を貫く自由惑星同盟も、長年続く体制の腐敗が進んでいました。そこでそれぞれの国に、ラインハルト・フォン・ローエングラムと、ヤン・ウェンリーという2人の天才が登場します。
私が影響を受けたのは、自由惑星同盟のヤン・ウェンリーです。彼は軍人でありながら、戦争が嫌いという性格の持ち主。ただ一度戦場に立つと、奇跡のような戦術を見せて、見方を勝利に導いていたのです。そんなヤンには、数々の名言があります。
例えば、「懸かっているのはたかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べれば、大した価値のあるものじゃない」というものがあります。国家を守るべき軍人が、国家を軽んじるようなことをいうのは考えられません。しかしヤンのこの言葉は、本質をついていると思います。時折、国や会社などの組織体のために、個人を犠牲にしようとする人を見かけますが、そういう人にはこの作品を読ませたいものです。
一方、銀河帝国のラインハルトも負けてはいません。彼は既存の銀河帝国を打倒し、自らを皇帝とした新銀河帝国を建国します。彼は才能豊かな若者を抜擢し、位だけが高く能力の低い貴族たちを排除しました。その貴族たちは、自分たちが特権階級であると勘違いし、民衆や下級貴族を下に見て虐げていたのです。そんな貴族たちを打倒したのち、公平な貴族社会を改めて構築した手腕は見事でした。
本作のテーマのひとつに、皇帝による専制政治と、民主主義とのどちらが優れているかというものがありました。物語のなかで明確な結論はでていません。しかし、このテーマをもとに進められる物語を読み進めていくと、現在の日本社会の課題を感じることもあります。